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市が特定できる部分は黒塗りして、PDFファイルにしました。
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長くなりますが、判決書の全文テキストは以下のとおりです。
市や個人が特定される部分は「XXXX」表記にしました。
→負けた裁判で隠すこともなかろうと思い、自分の住所氏名以外オープンにしました。私の住所氏名の部分も横浜地方裁判所に行って請求すれば閲覧できます。裁判はそもそもオープンなものです。
***判決書ここから***
平成26年4月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 遠山哲志
平成25年(行ウ)第42号 未払割増賃金請求事件
口頭弁論終結日 平成26年2月6日
判決
(原告住所)
原告 (原告氏名)
被告 大和市
代表者市長 大木 哲
訴訟代理人弁護士 大澤 孝征
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,1万1532円及びこれに対する平成25年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,1万1532円を支払え。
第2 事案の概要
本件は,地方公共団体である被告の事務職員である原告が,被告に対し,被告が週休日に実施した平成24年度職員非常参集訓練に伴う総合訓練(以下「本件訓練」という。)に参加して勤務したことについて,振替勤務に該当しないとして,時間外手当及び付加金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(認定した事実には証拠を掲げる。)
(1) 原告は,平成12年4月1日,被告に事務職員として採用され,平成24年4月1日以降,被告XXXX部XXXX課XXXX担当主任の地位にある者である。
(2) 被告は,原告の週休日である平成25年3月17日(日曜日)に,本件訓練を実施した(甲7)。本件訓練は,同日午前8時30分以降に被告職員が事前に登録していたメールアドレス宛てに非常参集訓練を開始することを通知し,各職員に対し,勤務場所へ参集することを要請するものであった(甲11)。
(3) 原告は,上記(2)の連絡を受けて,同日,勤務場所に赴いた。
(4) 被告は,平成25年3月17日午前8時42分頃,原告を含む各職員に対し,同日実施される本件訓練詳細をメールによって通知した。同通知には,本件訓練による勤務は,午前8時30分から午後0時30分までの4時間の振替勤務となることが記載されていた(甲7。以下「本件振替勤務命令」という。)。
(5)原告は,大和市公平委員会に対し,本件訓練における勤務について,4時間の振替勤務対応ではなく,原告が自宅を出発した午前10時40分から勤務を終了した午後0時30分までの1時間50分の時間外勤務とすることを求める措置要求を行ったが,同委員会は,平成25年8月19日,原告の措置要求を棄却する旨の判定をした(甲16)。
(6) 原告は,平成25年8月29日,本件訓練によって勤務した4時間分の振替休日を取得した(甲6)。
2 原告の主張
(1) 振替勤務に当たらないこと
本件訓練は原告の週休日である平成25年3月17日に実施されたものであるところ,本件振替勤務命令は適正な振替勤務の手続を経ていないから,振替勤務には該当せず,休日出勤に係る時間外手当が支払われるべきである。すなわち,振替勤務とするためには,事前に振替勤務となることを明示した勤務命令を行うこと,かつ,命令時において代替となる休みを指定することが必要であるにもかかわらず,被告は本件訓練においてこのような措置を講じていない。
被告は,振替勤務命令の時点においては代替となる休みを指定しないことが被告における労使慣行であった旨主張する。被告の職場においてそのような運用が慣例化していたことは争わないが,適法な扱いとはいえず,労使慣行としては認められない。
(2) 時間外手当請求
上記のとおり,原告が本件訓練において勤務した4時間は振替勤務には当たらないから,被告は,休日出勤にかかる時間外手当を支払うべきである。原告の1時間当たりの勤務単価に休日出勤にかかる割増率1.35を乗じると,2883円であり,その4時間分は1万1532円である。よって,原告は,被告に対し,4時間分の時間外手当として1万1532円及びこれに対する平成25年3月分の給与支払日の翌日である平成25年4月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(3)付加金請求
上記のとおり,本件訓練における勤務を振替勤務とした被告の取扱いは,時間外手当の支払義務を定めた労働基準法37条1項に違反する。被告は,原告が上記振替勤務命令の妥当性について疑義を申し立てた以降も,恣意的な法令解釈に固執し,時間外手当を支払おうとしない。したがって,同法114条に基づき,被告に対し,上記時間外手当額1万1532円と同額の付加金の支払が命じられるべきである。
3 被告の主張
(1) 振替勤務であることが周知されていたこと
被告は,平成22年3月30日,総務部長名で,「労働基準法等改正及び時間外勤務の縮減の本実施に伴う「時間外等事務」等の変更について(通知)」(甲12。以下「本件通知」という。)と題する文書を庁内各総務担当課に通知し,週休日・休日に勤務命令をせざるを得ない業務がある場合は,他の平日に行う予定の業務と併せ,4時間又は1日単位の命令とすること,週休日に勤務命令を行う場合は,必ず命令時に代替となる休みを指定し,同一週内の振替を徹底することを周知していた。被告は,本件通知発出後,上記のことを原則として週休日の振替等を運用しており,本件通知から既に3年が経過していたのであるから,週休日の勤務があれば原則として振替勤務となることが庁内に周知,徹底されており,原告もこのことを当然に承知していた。
(2) 振替勤務命令を認識することができたこと
本件訓練に際して,訓練開始時点である午前8時30分に,「訓練は,12:30までです。」と記載されたメール(甲11)が原告に送付されていたから,原告は,当日の勤務時間が4時間であって,被告のこれまでの運用上当然に振替勤務となることを認識することが可能であったし,訓練開始後に原告に送付されたメールの添付資料(甲7)にも,「4時間(8:30へ12:30)の振替といたします。」と明記されているのであるから,振替勤務となることは容易に認識することができた。
(3) 振替勤務命令の手続が適法であること
ア 振替勤務命令の趣旨からすれば,事前に振替勤務とすることを通知し,かつ,振替勤務命令と同時に代替日を指定すべきであるとしても,被告の条例等には,「いつまでに」振替勤務命令を出すのかという点も,また「必ず事前に代替日を指定すべき」とも定められていない。条例等に明文の定めのない事例については,職員の不利益にならない限り,労使慣行等によって補充する運用が認められるべきである。
イ 被告においては,所属長による命令があり,その上で週休日の振替簿を作成するのが制度上のルールであるが,実際の運用では,週休日の振替簿を職員が作成した上で,振替勤務日の前後において,本人の申告を基に所属長と職員本人とが協議をして振り替える日を決定する扱いが労使慣行として確立されている。このような労使慣行による運用は,職員本人の仕事の進行や家庭等個人的な予定を考慮し,職員の希望に沿って柔軟に振替日を設定することが可能であり,かえって職員の利益となるものであり,違法とされるべきものではない。
ウ 本件訓練においても,原告の所属長XXXX課長は本件訓練に参加していなかったが,振替勤務命令が存在し,それを職員が認識し,その後,労使慣行に従い具体的に振り替える日を所属長と協議の上で決定したものであるから,何ら異常な事態ではない。
エ 原告は,本件訓練後の平成25年3月29日に年次休暇を取得しているから,所属長と協議した上で同日を振替休日と扱うことも十分可能であった。しかし,原告はあくまで本件訓練について時間外手当の支給を要求し,大和市公平委員会に措置要求を行ったことから,所属長は週休日の振替簿の作成を保留し,同年8月19日に同委員会が棄却の判定を行ったのを受けて,原告と協議した上で,原告の具体的な振替日を決定したものである。原告は,上記のとおり振り替えられた日(同月29日)に4時間勤務しなかった上,同一週を超えて週休日を振り替えられた場合の時間外勤務手当(2136円)の支給も受けている。
オ 以上のとおり,本件訓練における振替勤務命令に違法な点は存在せず,被告は時間外手当及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負わない。また被告には未払の時間外手当の支払義務がないから,被告は付加金の支払義務も負わない。
第3 当裁判所の判断
1 被告条例の定め等
(1) 大和市一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する条例(甲2)には,以下の定めがある。
「第5条
任命権者は,職員に第3条第1項又は前条の規定により週休日とされた日において特に勤務することを命ずる必要がある場合には,規則の定めるところにより,第3条第2項又は前条の規定により勤務時間が割り振られた日(以下この条において「勤務日」という。)のうち規則で定める期間内にある勤務日を週休日に変更して当該勤務日に割り振られた勤務時間を当該勤務することを命ずる必要がある日に割り振り,又は当該期間内にある勤務日の勤務時間のうち4時間を当該勤務日に割り、振ることをやめて当該4時間の勤務時間を当該勤務することを命ずる必要がある日に割り振ることができる。」
(2) 大和市一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する規則(甲3)には,以下の定めがある。
「第4条
条例第5条の規則で定める期間は,同条の勤務することを命ずる必要がある日を起算日とする4週間前の日から当該勤務することを命ずる必要がある日を起算日とする8週間後の日までの期間とする。
2 週休日の振替(中略)又は4時間の勤務時間の割振り変更(中略)を行う場合には,週休日の振替又は4時間の勤務時間の割振り変更(中略)を行った後において,週休日が毎4週間につき4日以上となるようにし,かつ,勤務日等(中略)が引き続き24日を超えないようにしなければならない。
3 4時間の勤務時間の割振り変更を行う場合には,第1項に規定する期間内にある勤務日の始業の時刻から連続し,又は終業の時刻まで連続する勤務時間について割り振ることをやめて行わなければならない。」
(3)大和市職員服務規程(甲1)には以下の定めがある。
「第17条の2
大和市一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する条例(中略)第4条第1項の規定による週休日及び勤務時間の割振りは,週休日等の割振表により所属長がそれぞれ行うものとする。
2 勤務時間条例第5条の規定による週休日の振替は,週休日の振替表により所属長が行うものとする。」
2 認定事実
前提事実,証拠(甲6,7,11,12,14ないし16,24,乙5,7,8)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 被告の人事主管である総務部長は,平成22年3月30日,被告の各総務担当課長に宛てて,本件通知(甲12)を送付した。本件通知には,時間外勤務縮減に向けて,週休日に勤務命令を行う場合は,必ず命令時に代替となる休みを指定し,同一週内の振替を徹底すべきことが記載されている。本件通知を受けて,被告においては,職員の週休日に業務上の必要性から勤務命令を行う場合には,時間外勤務命令ではなく,振替勤務命令を出して振替休日を取得させる運用が広く行われていた。また,上記1のとおり,大和市職員服務規程によれば,振替勤務命令において,所属長が振替日を指定する命令を出すこととされているが,実際の運用では,週休日の振替簿を職員が作成した上で,振替勤務日の前後において,本人の申告を基に所属長と職員とが協議をし,振替日を本人が申告して,それを所属長が承認するという扱いが広く行われていた。
(2) 被告は,平成25年1月29日,被告全庁に向けて,「平成24年度 職員非常参集訓練概要」(甲14の3枚目)を通知した。同通知には,平成25年2月ないし3月の間の1日に訓練が行われること,病気,体調不良,けがなど,訓練に支障のある職員は対象から除かれること,訓練の詳細については参集時に庁内メールで伝達されること等が記載されている。
(3) 被告は,原告の週休日であった平成25年3月17日午前8時30分以降,原告を含むあらかじめ登録済みの職員の私的なメールアドレス宛てに本件訓練の通知を送付した。原告は,同通知を受けて,勤務地に出勤し,本件訓練に参加した。なお,訓練に支障のある職員は本件訓練に参加することを義務付けられておらず,実際に,約3割の職員は本件訓練に参加しなかった。また,被告は,本件訓練開始後の同日午前8時42分頃,原告を含めた各職員に対し,庁内メールを利用して,同日実施される本件訓練に伴う勤務は,午前8時30分から午後0時30分までの4時間の振替勤務となることを通知した(甲7。本件振替勤務命令)。
(4) 原告は,本件訓練に伴う振替勤務について,近接した期間にこれを振り替えた4時間の休暇を取得することができる状況にあったものの,同大和市公平委員会に対し本件訓練に伴う勤務を時間外勤務とすることを求める措置要求を行ったことから,原告の振替休日の取得は当面保留された。
原告の所属長であるXXXX課長は,大和市公平委員会が平成25年8月19日に原告の措置要求を棄却する判定をしたことを受けて,原告と協議をした上,同月29日,原告に4時間の振替休日を取得させた。被告は,原告に対し,同一週に振替休日を取得しなかったことに係る手当2136円を支払った(乙8)。
3 検討
(1) 原告は,地方公務員であるところ,地方公務員については,地方公務員法58条3項で労働基準法の適用除外とされているものを除き,同法が適用されるところ,労働基準法においては,振替勤務についての定めはない。他方,地方公務員の任命は公法上の任用関係であり,その勤務形態は条例等によって規定されるものであるから,本件訓練に伴う振替勤務命令が有効であるか否かについても,被告条例等の定めに基づいて判断されるべきである。
(2) そこで,振替勤務についての被告条例等の定めについてみるに,上記1のとおり,被告条例等において,職員に対して振替勤務を命じるに当たり,事前に振替勤務となることを明示した勤務命令を行うことや,振替勤務命令と同時に代替となる休みを指定すべきことは定められていない。そうすると,本件訓練における被告の振替勤務命令が,事前に振替勤務となることを明示した勤務命令を行っておらず,また,振替勤務命令と同時に代替となる休みを指定していないことを理由に,振替勤務に該当しないとする原告の主張は採用することができない。
(3)
ア もっとも,被告総務部長が平成22年3月30日に発出した本件通知(甲12)においては,週休日に勤務命令を行う場合には,必ず命令時に代替となる休みを指定すべきことが記載されており,また,行政通達(昭和23年4月19日基収1397号,昭和63年3月14日基発150号)においては,休日の振替を行う場合には,就業規則等において休日振替に関する定めを設けた上で,あらかじめ振替勤務となる日及び振替休日となる日を特定すべき旨が定められている(当事者間に争いがない。)から,被告においても,振替勤務命令を行う場合には,事前に振替勤務であることが明示され,かつ,振替休日となる日が指定されていることが望ましいということはできる。
イ しかしながら,本件訓練の実施要領(甲7)によれば,本件訓練は,事前に日時を予告しない状況下において,勤務場所に参集することができる職員の人数や参集時間を把握することもその目的としていることが認められるから,事前に日時を告知すれば訓練の目的を達成することができないこととなる。また,前記認定事実のとおり,被告は,平成25年1月29日,被告全庁に向けて,平成25年2月ないし3月の間の1日に本件訓練が行われることを予告しているから,本件訓練の目的を損なわない限度での告知はされていたといえる。そして,上記認定事実のとおり,平成22年9年3月30日に発出された本件通知以後,被告においては,週休日の勤務は振替勤務とする運用が広く行われていたことからすれば,原告を含めた被告職員は,本件訓練のための出勤が振替勤務となることは容易に認識することができたものといえる。そうすると,本件訓練における勤務が振替勤務であることが事前に明示されていなかったとしても,本件訓練の性質上やむを得ない事由があったものであり,かつ,本件訓練の目的を損なわない限度での予告がされていたこと,被告職員は従前の運用から本件訓練による勤務も振替勤務となることを容易に認識できたことに照らし,本件振替勤務命令が無効であったということはできない。
ウ また,前記認定事実のとおり,被告においては,本件通知に従えば振替勤務命令時点において所属長が一方的に振替休日を指定することとなるが,実際には,振替勤務日の前後において,本人の申告を基に所属長と職員が協議をし,振替日を本人が申告して,それを所属長が承認するという扱いが広く行われていたことが認められる。振替勤務命令と同時に振替休日を指定することが求められるのは,職員に振替勤務を行わせつつ,その後職員が振替休日を取得することができない事態が生じることを防止するための措置であると解されるところ,被告においては,振替勤務日の前後において本人の申告を基に所属長が振替休日を承認するという運用を行っているのであるから,このような被告の運用によっても職員が振替休日を取得することができない事態を防止することができると認められるのであり,被告において振替勤務を行わせたにもかかわらず,職員に振替休日を取得させない事態が生じていたことを認めるに足りる証拠はない。さらに,被告の上記運用は,振替休日とすべき日について職員の個別具体的な事情や要望を反映させることができるという利点があることも踏まえれば,このような運用によって,本件振替勤務命令が無効になるものとは認められない。
(4) 以上検討したとおり,本件における上記の事実関係の下では,本件振替勤務命令を無効とすべき理由があるということはできないから,本件振替勤務命令が無効であることを理由に本件訓練における勤務について時間外手当の支払を求める原告の請求は理由がない。
4 結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所第7民事部
裁判長 裁判官 阿部正幸
裁判官 岡田毅
裁判官新谷祐子は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 阿部正幸
***判決書ここまで**
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