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今さらではありますが、東京高等裁判所の判決文を全文掲載します。読み返すたびにイラっとするので今までテキスト起こしできませんでした。
***判決書ここから***
平成26年10月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成26年(行コ)第215号未払割増賃金請求控訴事件(原審・横浜地方裁判所平成25年(行ウ)第42号)
口頭弁論終結日 平成26年9月10日
判決
(控訴人住所)
控訴人 (控訴人氏名)
神奈川県大和市下鶴間一丁1番1号
被控訴大 大和市
同代表者市長 大木 哲
同訴訟代理人弁護士 大澤 孝征
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は控訴人に対し,1万1532円及びこれに対する平成25年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は控訴人に対し,1万1532円を支払え。
第2 事案の概要(以下,略語等は原判決の例による。)
1 普通地方公共団体である被控訴人は,平成25年3月17日(日曜日)午前8時30分から12時30分まで,平成24年度職員非常参集訓練に伴う総合訓練(本件訓練)を実施した。本件訓練は,予め各職員に対し平成25年2月ないし3月の間の1日に訓練を実施すること等の訓練概要を通知した上で,大地震発生を想定し,訓練に支障ある者等を除いた各職員をして,訓練当日の参集要請に応じて原則として徒歩又は自転車で勤務場所に参集させ,参集までの状況の報告や,参集後各部署の初動対応確認等の訓練を行うというものであった。被控訴人は,職員に対し,本件訓練当日,訓練開始後の午前8時42分頃,庁内メールにより,本件訓練にかかる勤務を午前8時30分から12時30分まで4時間の振替勤務とする旨の記載を含む訓練詳細の通知をした(本件振替勤務命令)。
本件は,被控訴人の職員で週休日に本件訓練に参加した控訴人が,本件振替勤務命令は,事前に振替勤務となることを明示せず,勤務命令時において代替となる休みを指定してもおらず,適正な振替手続を経ていないから,本件訓練における勤務を時間外労働として割増賃金が支払われるべきであると主張して,被控訴人に対し,4時間分の割増賃金1万1532円及びこれに対する遅延損害金並びに付加金1万1532円の支払を求めた事案である。
2 原判決は,本件振替勤務命令を無効とすべき理由があるということはできないとして,控訴人の請求を棄却した。
これに対し,控訴人が控訴をして,第1記載のとおりの判決を求めた。
3 前提事実及び当事者双方の主張は,次項のとおり当審における控訴人の主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし3項に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人の主張
原判決には,以下のような法的解釈の誤りがあり,取り消されるべきである。
〈1) 地方公務員の勤務条件について,適用除外となっている規定以外は労働基準法が適用される。労働基準法35条及び37条の解釈により,振替勤務命令については,所定休日が到来する前に,振り替えるべき日を特定して,振替手続が行われることが必要である。この解釈は,過去の判決例及び行政通達(昭和23年4月19日基収1397号及び昭和63年基発150号)においても示されているのに,原判決が異なる解釈をしたのは不当である。
(2) 平成22年3月30目付け被控訴人総務部長名通知(本件通知)は,振替勤務命令を行う際は必ず事前に振替休日となる日を指定するものとしている。本件通知は,条例や規則で規定しきれない細かな実務上の運用について規定し,その趣旨を広く徹底させることを目的としており,実務上も職員の勤務条件を規定するものと扱われ,被控訴人自身も単なる宣言ではないとしているのに,原判決は単なる努力規定に過ぎないとしており,不当である。
(3) 被控訴人は,当初は,本件通知により周知されていたはずの振替勤務命令の要件を理解せず,振替対応指示は勤務命令と同時でも有効と認識していたと思われるが,本件訴訟において,労使慣行により適法であると主張を変更した。しかし,物理的に事前に振替休日を指定できない状況での勤務を振替対応とすることは,本件振替勤務命令が初めてであったから,本件を労使慣行として適法と認めることはできない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件振替勤務命令は無効とはいえず,控訴人の時間外手当等の支払を求める請求には理由がないと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正し,当審における控訴人の主張を踏まえて次項のとおり補足するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1ないし3項に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決9頁23行目の「前記認定事実のとおり,」の次に,「本件振替勤務命令は,本件訓練開始に近接した訓練当日の午前8時42分頃にされている上,」を加える。
(2) 原判決10頁24行目の「さらに,」から11頁1行目末尾までを,次のとおり改める。「さらに,被控訴人における上記運用には,振替休日とすべき日について職員の個別具体的な事情や要望を反映させることができるという利点もある。したがって,被控訴人における上記運用が,労働基準法や被控訴人の条例,規則及び職員服務規程の趣旨に反するということはできない。そうすると,上記運用が労働基準法の趣旨に反し,適法な扱いとはいえないから,労使慣行として認められないとする控訴人の主張は,その前提を欠くというべきである。そして,本件振替勤務命令に関し,控訴人が大和市公平委員会に措置要求を行ったことから,所属長は,その措置要求を棄却する同委員会の判定がされた後に,控訴人と協議の上で控訴人に振替休日を取得させた(前記2(4))のであるから,控訴人に対しても上記運用の範囲内で振替休日の指定がされたと認めることができるのであって,この観点からも本件振替勤務命令が無効ということはできない。」
2 当審における控訴人の主張について
(1) 控訴人は,労働基準法35条及び37条の解釈により,振替勤務命令は事前に振り替えるべき日を特定してされるべきであるから,これをしていない本件振替勤務命令は無効である旨を主張する。しかし,労働基準法は振替勤務について具体的な明文を定めてはいないから,地方公務員である被控訴人職員の週休日の振替勤務命令に関しては,被控訴人の条例や規則等に振替勤務の定めがあればまずこれに従うべきものであり,関連法規の解釈を示した行政通達や,定着した運用があれば,それも参酌して,具体的な振替勤務命令が発せられた際の事情をも検討した上で,その当否を判断すべきものである。これを本件振替勤務命令について検討するに,本件訓練が突発的な災害を想定して事前予告のない参集要請に応じることのできる職員数やその参集時間を把握することも目的としていたため,事前に振替勤務命令がされなかったのもやむを得ないといえること,本件振替勤務命令は本件訓練開始に近接してされていた上,訓練の目的を損なわない限度での予告がされ,職員にとっても従前の運用から振替勤務となることを認識し得たこと,振替休日の指定も被控訴人において広く行われている法規等の趣旨に反しない運用の範囲内でされたことに照らすと,本件振替勤務命令が,労働基準法及び被控訴人の条例等の趣旨に反するとまではいえないことは,前記付加訂正部分を含む原判決の説示のとおりである。したがって,本件振替勤務命令を違法,無効ということはできない。
(2) また,控訴人は,本件振替勤務命令が,振替勤務命令を行う際は必ず事前に振替休日となる日を指定するものとした本件通知に反するもので無効である旨を主張しているところ,確かに,本件通知には,週休日に勤務命令を行う場合には必ず命令時に代替となる休みを指定する旨のほか,振替勤務命令は事前の勤務命令に基づく勤務である旨の記載がある(甲第12号証の2枚目3及び5)。しかし,甲第12号証によれば,本件通知は,労働基準法改正を受けて,職員の健康増進,よりよいワークライフバランスなどの実現のために時間外勤務の縮減を図るとの見地から,被控訴人における休日振替等についての運用を周知するために発せられた文書と解されるのであり,振替勤務命令一般についていえば,上記記載に従った運用がなされることが望ましいと一応はいえるものの,上記のような目的及び趣旨からみて,本件通知が具体的事情による例外を一切認めない趣旨とは解し得ない。したがって,控訴人が指摘する行政通達(原判決第3,3(3)ア)が発せられていることや本件通知の趣旨を十分に参酌しても,前記(1)の事情に照らすと,本件振替勤務命令が本件通知と異なる形で発せられたことから直ちに本件振替勤務命令が無効であるということはできない。控訴人のそのほかの主張は,いずれも上記の判断を左右するものではない。
第4 結論
以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官 水野 邦夫
裁判官 若林 辰繁
裁判官 瀬川 卓男
***判決書ここまで***
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